桜舞う4月2日から26日まで開催されたStanley Donwoodの日本での初個展。スクリーン・プリントとリノ・プリントで構成された「London Views」、銅版画の「Super Suburbia」、ペンインティングで描かれた「Puffer」という3シリーズで展開。「I LOVE THE MODERN WOLRD」と題されたタイトルには、安易に直接的な意味だけではなく、現代社会への問題提起が込められている。本誌+81 Vol.37巻頭インタビュー以来となる彼に、個展、日本の印象、今後の動向について語ってもらった。
——今回が初来日ですか?
Stanley Donwood(以下SD):2000年に来日しているから2回目。日本でのエキシビションは今回が初めてだけどね。
——日本の印象は?
SD:東京にしか来たことがないので、何とも言えないけれど、とても好きな国だよ。前回は六本木や原宿、渋谷を訪れたけど、今回は浅草へ行ったんだ。浅草は他のエリアと全く違う雰囲気で、人間味を感じることができて本当に良かったよ。あとは、日本の田舎風景を見たり、京都に行ってみたいね。村上春樹の『羊をめぐる冒険』という北海道を舞台にした小説を読んだけれど、冬の北海道の山小屋で暮らしてみたいと思いつつ、絶対にその孤独感に耐えられないだろうなと想いを巡らせたりもするよ。
——では、展示会について伺います。タイトルを「I LOVE THE MODERN WOLRD」にした理由を教えてください。
SD:現代社会の利便性を皮肉まじりに讃えているんだ。僕はぜんそくなんだけど、作品にも登場してくるインヘラ(吸入器)によって、生きることができている。その反面、ぜんそくという病気は大気汚染によるもの。そういった社会が抱える問題と最新テクノロジーへの皮肉を交えた意味合いなんだ。
——今回は「London Views」「Super Suburbia」「Puffer」と3シリーズ構成ですが、 それぞれのコンセプトを教えてください。
SD:「London Views」は、イギリス南部のCornwallで洪水を目の当たりにしたのがきっかけ。その経験から、頭の中にロンドンの建物やビルが水害によって倒れていくイメージが膨らんできたので、それを木版で表現した。その後、リノ・プリントを用いてシリーズ化したものなんだ。「Super Suburbia」は、本にインスパイアされた作品。休暇中によく読書をするんだけど、その中に資本主義と資本主義から生まれる環境汚染について書いてあり、深く考えさせられたんだ。郊外に住むということは地球環境に悪影響を与えている面があり「何でこんなに資源を無駄にして、人間のプラスにならない生活スタイルを選択するんだろう」と、自分の中でそういった葛藤に苦しんだ時期があって。そういった問題を初めて作品で表現し、少しはストレスを発散することができた。「Puffer」は今年描き下ろした新作。8歳の時からぜんそくの僕は、ある意味インヘラによって生かされてきたので、インヘラへの崇拝を表現したかったんだ。ぜんそくを患っている人からしたら、神様のことよりも、インヘラを持っているかどうかを考える時間の方が長いからね。
——今回のエキシビションを通じて、オーディエンスに何を感じてもらいたいですか?
SD:僕は作品を作ることによって、ストレスを発散しているんだ。イギリスには“人に悩みを相談することで、負担が半減される” ということわざがあるんだ。だとすれば、たくさんの人に作品を見てもらえたら、自分のストレスもどんどん軽減されるよね(笑)。だから、アートを制作すること自体、自分勝手な行動なのかもしれない。
——イギリスで活動されていますが、最近のイギリスのアート・シーンはいかがですか?
SD:実際、アート・シーンについてあまり詳しくないんだ。もともと僕はストリート・アートからスタートした人間なので、自分をアート・シーンの一部だと考えたこともないしね。ただ、アルバム・アートについては、音楽チャートといったランキングは別として、アートの観点からすればとても民主的だと思うんだ。というのは、誰でもCDショップに行けば目にすることができるし、手に取って買うことができるからね。
——現在、進行しているプロジェクトや仕事はありますか?
SD:まずはペインティングのシリーズをもっと展開すること。もう1つはRADIOHEADのツアーのアートワークを制作しなければならないんだ。あとは、自分の趣味というか馬鹿げたアイデアを形にしたい。
——どんなアイデアですか?
SD:印刷までのプロセスでコンピュータやコンプレッサ、機械を一切使わずに本を作ってみたいんだ。短編集で、ストーリーはもう書き上げているんだけど、古いタイプライターで文字をタイピングして、それを印刷工場へ持って行く際に、車ではなく馬車を使い、その後Bristolへはボートで運河を下って、また馬車で…と、果てしない話(笑)。そんなプロジェクトを考えているんだ。
Stanley Donwood
イギリスのNorth Essex School of Artを卒業後、University of Exeterにて美術と英文学を専攻。在学中にRADIOHEADのThom Yorkeと出会い、1995年発表のアルバム『The Bends』のジャケット制作以降、同バンドのアートワークおよびプロモーションにYorkeと共に関わり、02年には『Amnesiac』の特別エディションでグラミー賞を受賞。ヴィジュアル作品の制作と同時に、自身のウェブサイトにて短編ストーリーの発表も続けている。