ロンドンを拠点に、世界中のカルチャー・シーンで注目されているクリエイティヴ・カンパニーAmosの設立者であるJames JarvisとRussell Waterman。確固とした世界観を持つクリエーターJarvisと、敏腕な経営者でありディレクターでもあるRussellは一見対極に位置している ように見える。しかし、その二人のバランスは絶妙だ。長年の友人で、ビジネスパートナーでもあるだけに、互いを尊重し、そして認め合っているのが話をして いく上でじわじわと伝わってきた。今回はコミックブック『Vortigern's Machine And the Great Sage of Wisdom』の日本語版リリースを記念して来日したJarvisとRussellにインタビューを行った。
——『Vortigern's Machine And the Great Sage of Wisdom』を制作したきっかけは何だったのでしょうか? また、そのアイデアはどのように生まれたのですか?
James Jarvis(以下JJ):僕はいつも子供達にコミックブックから何かを学んで欲しいと思っていて、それがこの本を作るアイデアになったんだ。例えばTintinみたいな、ヨーロッパの伝統的なコミックブックをね。それがずっと僕の野望でもあったんだ。それで、フィギュアとかTシャツのグラフィック・デザインをするようになった。 Russellと僕が一緒にAmosを立ち上げてから、始めのうちはキャラクターやフィギュアを制作していたんだけど、このキャラクター達が、物語を伝えるのに最適だってことに気付いた。Russellは物語を書けるし、僕は絵を描ける。それで、これはいいプロジェクトになるって思ったんだ。あと、自分たちで本を出版したかった。誰の助けも借りずにね。
Russell Waterman(以下RW):その通り。Amosを立ち上げてから僕らはより近い距離で一緒に働くようになったんだけど、以前よりももっとコンセプトやアイデアを持って仕事をしているよ。僕は前に執筆の仕事をしていたから、コミックブックの物語を書いてみたかった。それで、その物語を10歳から12歳ぐらいの子供達に向けて作ろうと思ったんだよ。実際は大人が読んでも楽しめるようなカルチャー的な要素も含まれているんだけどね。その後物語をどのように伝えるか、どんなキャラクターが適しているかを考えてコンセプトを定め、長いストーリーを作り込んでいったんだよ。
——どのようにキャラクターが作られていったのですか?
JJ:この本のインスピレーションは、昔描いていたキャラクターから来ているんだ。メインのキャラクターRustyとWiggsは確か10年ぐらい前に描いていて、Russellがそれを覚えていたんだ。この二つのキャラクターは何かに使えるんじゃないかって感じていた。
——本作りの一番の面白さは何ですか。
JJ:何もない。ただ辛いだけだよ…。(笑)
RW:僕は好きだよ!もっと作りたい。次のを作ろうよ!
JJ:僕の問題は概念的にコミックブックが好きだってことだね。だから「絵を描く」という行為を裏付ける哲学とか概念を考えなくてはならない。それで実際にその仕事を始めるという段階になると、いつもルールを作って自分に問いかけるんだ。何をすべきで、何をすべきじゃないかってね。それを決めるのにすごく時間がかかるんだ。いつも自分の中では、アイデアと実際に描く絵の間に葛藤があって。そんな感覚がトラウマになってしまって、ストレスに感じることもある。僕は何かのプロジェクトが終わった時、一度も満足した事はないよ。どの作品にも完璧でない部分が見えてしまう。でもそれから何年か経った後に「すごくいいじゃないか」って思ったりもするんだ。
RW:ames はとことん完璧を追求するからね。だからこそ、最高の作品が生まれるんだと思ってるよ。
——本が完成した時はどういう気持ちでしたか?
JJ:印刷屋からこの本が出来上がってきた時、見ることすらできなかった。ただ本当に嫌いだったんだ。だけど僕らは自分たちで物語を作って出版して、それを読んでくれる人たちを築いたんだって事に気付いて、それってすごい事じゃないかって思い始めた。達成したことに対して、後になってから気付く時もあるね。
RW:僕の場合は物語を書くことしかできないから、とにかくJamesを励ましていたよ。いつも「James頑張れ、君ならできるよ!」ってね。それで、全てが終わって印刷屋から配達されてきた時、彼はただただ気に入らなくてずっと「最悪だ、最悪だ」って言ってた。でも時間が経って、ポジティヴな見方をするようになった。彼の場合いつも後になってから意見ががらりと変わるんだ。
JJ:たまにね。
RW:いや、いつもだよ!(笑)
——この本を読む人たちにどういうことを感じてもらいたいですか?
JJ:ただ純粋に楽しんで欲しい。
——今後本を出版する予定はありますか?
JJ:予定はあるけど、スケジュールは立ってないね。
RW:僕はまだ3冊か4冊ぐらい出版したいけど、でも彼は描かなきゃいけないし。
JJ:コミックブックを描きたいっていう気持ちはあるんだけど、どうやって描くのかを考えなくてはいけない。たまには本当に自由に絵を描きたいって思うんだよ。
RW:僕は彼が描くキャラクターも世界も大好きで、完璧だと思うし、それぞれのキャラクターに彼のパーソナリティが現れていると思う。絵を描くってことはすごく大変で時間のかかる作業だって理解しているよ。だからもっと簡単にできる方法を考えなくてはね。
——ロンドンをベースに活動されていますが、最近のロンドンのカルチャーやアート・シーンはどうですか?
JJ:あんまり好きじゃないね。僕はとにかく物事を比べてしまいがちだから、もし誰か他の人がやっている事を観てそれが嫌いだったら「こんなの観る人の時間を無駄にするだけだ、やるべきじゃない」って思うし、もしそれが素晴らしかったら「僕がやっていることの意味って何なんだろう」と考えてしまう。だからとにかくあまり多くのカルチャーは観ないようにしているよ。映画とかコンテンポラリーなものは観ているけどね。それと公園にも行くよ。
——あなたの作品はとてもカルチャーに影響を受けていると思うのですが。
JJ:うん、間違いなくカルチャーに多くの影響を受けている。でもグラフィックとかイラストレーションとかのヴィジュアル・カルチャーではなくて、もっと社会的なカルチャーかな。人がどうやって生きているのかとか、どうやって話をしているのかとかね。
RW:ロンドンのカルチャーはすごく堅調だと思うよ。たくさんのことが行われているし、たまに知る必要のないこともあるけど、とにかく幅広いレベルで物事が起こっていることを感じる。それとここ10年でロンドンはかなり力を持ってきていて、アーティストは世界的なレベルで作品が売れている。だからアートに関してもすごく堅調だと思う。
——現在進行中のプロジェクトについて教えてください。
JJ:『Vortigern's Machine And the Great Sage of Wisdom』とは全く違うけど、今度新たにフィギュアをリリースするよ。これはアートだと思っている。アート・フィギュアだね。名前はYOD(ヨッド)で、すごくミニマルに仕上がっている。キャラクターをデザインしてから分かったことなんだけど、Russell のはもともと自分のものだっていう意識はあるけど、このフィギュアのアイデアに関してはRussellがリサーチをして、学術的な裏付けを加えてくれて、すごく面白いコラボレーションになった。YODは個性的なキャラクターで、一見ただのジャガイモに、手と足が付いているだけなんだけど、世界でもっとも美しいとされている比率「黄金比」に沿ってその形が作られているんだ。
RW:そう、これには数学的な方程式が用いられていてとても複雑なんだけど、古い概念を使って形を作っているし、間違いなく完璧なアート・フィギュアになるね。
JJ:知的なジョークなんだけどね(笑)。
JJ:僕らは真剣で知的なこと、それとポップ・カルチャーについていつも考えている。
RW:このフィギュアは9月末にリリースする予定だよ。詳しくはAMOSのウェブサイトでチェックしてみて。
AMOS
James Jarvis
1970年、南ロンドン生まれ。95年にロイヤル・カレッジ・オブ・アート卒業後フリーのイラストレーターとして活動を開始。Numero, I-D, Lodown等数多くの雑誌にアートワークを提供すると同時に、Sony,Nokia, TOTO等の広告制作にも携わる。98年以降、ファッション・ブランドSilasにグラフィックやフィギュア・デザインを提供。02年、Russell Watermanらとグッズ制作会社Amosを設立。雑誌へのアートワークの提供や、広告制作、近年ではStussy, Chloe, NIKE等のファッション・ブランドとのコラボレーション等、その活動は多岐にわたり、世界的に注目されるアーティストの一人。
Russell Waterman
1966年、ロンドン生まれ。88年、ロンドンで当時最も影響力のあったレコード&スケートショップRough Trade及びSlam City Skatersのバイヤーとしてキャリアをスタート。98年、Sofia Pranteraと共にファッション・ブランドSilas&Mariaを設立。その後02年にJames Jarvisらと共にAmosを設立。カンパニー・アイコンとなったKing Kenのフィギュアのほか、『Tales From Green Fuzz』や『Vortigern's Machine And the Great Sage of Wisdom』等のコミック本を発行している。